健康を意識しているなら、「野菜1日350g以上」というフレーズを聞いたことあるかもしれません。厚生労働省が推奨する野菜の目標摂取量です。
厚生労働省の平成28年調査によると、日本人の野菜平均摂取量は男性で283.7 g、女性は270.5 g だそうです。つまり、目標値より70gほど不足していることになります。
しかし、“350” という数字については何の根拠も示せていないのが実情です。
今回は、「野菜1日350g」が無意味と言える理由を5つお伝えします。
「野菜1日350g」に根拠なしの理由
野菜を全く摂らないのは論外として、大量摂取したところで健康になれるわけではありません。ここでは、無理に350という数字にこだわる必要がない5つの理由を説明します。
科学的根拠がない
「野菜を1日350g以上摂りましょう」というフレーズは知っていても、“350” という数字の由来まで頭に入っている人は少数派だと思います。
この数字の根拠は、健康日本21(栄養・食生活 )の中で書かれています。以下引用します。
カリウム、食物繊維、抗酸化ビタミンなどの摂取は、循環器疾患やがんの予防に効果的に働くと考えられているが、特定の成分を強化した食品に依存するのではなく、基本的には通常の食事として摂取することが望ましい。これらの摂取量と食品摂取量との関連を分析すると、野菜の摂取が寄与する割合が高く、平成9年で成人の野菜の1日あたりの平均摂取量は292gであるが、前述の栄養素の適量摂取には、野菜350~400gの摂取が必要と推定されることから、平均350g以上を目標とする。
つまり、病気の予防に大切な食物繊維、ビタミン、ミネラルの必要量を満たすには、野菜に含まれる栄養量から判断し、350~400g が必要と推定されるという見解です。
もっともらしいこと言っているように聞こえますが、野菜と疾病率や死亡率との関連性を示す統計調査や科学的・医学的研究データから導き出されたものではないので、あくまで「推定される」という表現に終始しています。
つまり、350の根拠は非常にあいまいであり、これでは説得力に大きく欠けるといわざるを得ません。
野菜と病気予防に関する研究データが少ない
野菜がガンや循環器疾患を予防するかどうかも、現段階では明らかになっていません。
特にがんに関しては、罹患リスクの追跡調査では、野菜の摂取量と関連が認められなかったことが明らかになっています。
一方、循環器疾患に関しては、欧米で、「野菜・果物摂取量の多い人ほど心筋梗塞の罹患リスクが少ない」という研究報告があります。また、日本の追跡調査においても同様の報告がなされています。
ただこれも、先ほどの国立がん研究センターの調査では否定されているので、少なくとも日本においては、はっきり証明されたわけではありません。
もちろん野菜には食物繊維やビタミンが豊富で、ほとんど食べないよりは効果が期待できますが、350g以上摂ることで病気を防げるという根拠は皆無なのです。
不溶性食物繊維に偏る危うさ
野菜に含まれる豊富な食物繊維は健康的に思えますが、不溶性食物繊維に偏ってしまうというデメリットも存在します。
食物繊維には不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の2種類があり、前者は腸の運動を促し便を肛門の方へ押し出す働きがあり、後者は便に水を含ませて柔らかくする働きがあります。不溶性食物繊維に偏れば、腸を動くけど、水を含まない硬い便しか作れず便秘になります。便秘を防ぐには、バランスが重要です。
水溶性食物繊維は海藻や果物に多く含まれており、野菜ばかり食べていたのでは必要量を摂るのは難しいです。ここにも野菜信仰の危うさが見てとれます。
ビタミンB不足
野菜などの植物性食品だけに頼っていると確実に不足するのがビタミンBです。ビタミンB群には、糖質をエネルギーに変えるB1や肌の健康に不可欠なB2などがあり、不足すれば日常生活に大きな支障が生じます。
にもかかわらず、我が国の指針では野菜の大切さは説くけど、動物性食品の重要性については、ほとんど語られておりません。食事バランスガイドを見ても、動物性食品を一切摂らなくても栄養バランスが整うようになっています。
しかし、もし野菜などの植物性食品ばかり意識し過ぎて、肉や魚介類などをほとんど摂らない生活を続けていると、ビタミンB不足で不健康になっていくでしょう。
特に高齢の方は肉や魚を敬遠する傾向にありますが、ビタミンB不足で免疫が低下し、肺炎やがんで命を落とすことにもつながりかねないので、動物性食品の摂取を意識的に心掛けたいところです。
野菜だけ食べても健康になれない
上で述べたように、野菜だけ食べていたのでは健康になれません。
野菜を意識的に摂った上で、他の食品もバランスよく食べれる余裕があるならいいですが、野菜350gだけに目が行ってしまうと、肉や魚、海藻類など、健康維持に絶対不可欠な食べ物が疎かになってしまうのが現状でしょう。
まずは、野菜よりも食事バランスを意識する方が先決です。野菜・海藻・果物・大豆製品・ナッツ・肉・魚・穀類をバランスよく摂るように心掛けましょう。
野菜の摂取量を増やすための手軽な工夫3選
前章で「野菜を1日350g摂ることに意味はない」という話を散々してきましたが、かと言って、極端に不足するのは問題です。できれば、日本人の平均摂取量である270~280g程度を目標にしたいところです。
ここでは、野菜不足の人が野菜の摂取量を増やすためにできる3つの工夫を紹介します。
外食にはサラダを付ける
忙しいお昼は牛丼やカレー、ラーメン等の外食で済ませてしまうという人は、それらにサラダを加えるとずいぶん違ってきます。サラダを注文すれば、1日の野菜摂取量を70g増やせるからです。
後は、朝と夕食で合わせて3皿分の野菜料理を食べれば、目標の280gを満たすことができます。
主食は未精製穀物で摂る
ご飯や麺類などの主食を精白された穀物で摂るのは、非常にもったいないです。残念ながら白米や白パン、精製麺には、ビタミン・ミネラル・食物繊維はほとんど含まれておらず、炭水化物だけ食べているのと同じことです。
一方、玄米や雑穀米、ライ麦パン、全粒粉パンなどの未精製穀物は、食物繊維が豊富に含まれ、ビタミン・ミネラルも精白されたものとは雲泥の差です。特に野菜が少ない人は、せめて主食くらいは未精製穀類でしっかり栄養を摂りましょう。
味噌汁は具沢山で
定食屋や牛丼屋に行けば、多くのメニューで味噌汁がついてくると思いますが、できれば具だくさんの味噌汁に変更することをおすすめします。
野菜だけ食べるのはなかなか難しいですが、味噌汁と一緒なら楽に食べられるものです。野菜がたくさん入った味噌汁を飲むだけで、70g分の野菜を効率的に摂取できます。
まとめ
「野菜を1日350g以上摂れば健康になれる」という根拠はどこにも存在しません。むしろ無理なノルマに囚われて、野菜以外の食品にしか含まれない大切な栄養素が不足し、健康を悪化させてしまう恐れがあります。
もちろん野菜が健康食であるのは間違いないですが、日本人の平均摂取量程度摂れているのであれば、あまり気にする必要はありません。
まずは、全ての食品群から満遍なく摂取する食生活を心掛けましょう。