点から面へ。世界を網羅する「アドネットワーク」の革命とGoogleの覇権

「どのサイトに広告を出すか」から「誰に広告を届けるか」へ。 アドサーバーという司令塔を手に入れたインターネット広告は、1990年代後半、爆発的な進化を遂げます。それは、星の数ほど増え続けるウェブサイトをいかに効率よく束ね、広告主の予算を届けるかという「面」の開拓史でした。


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【課題】1社ずつ「決定・収容」を行う限界

インターネット黎明期、広告配信は驚くほどアナログでした。メディアレップがバナーの画像を受け取ると、各ウェブサイトの担当者に渡し、担当者が手作業でサーバーにアップロードする。サイト数が増えるにつれ、この作業は物理的な限界を迎えていました。

アドネットワークの先駆者「Infoseek Network」の衝撃

実は、現在私たちが「アドネットワーク」と呼んでいる仕組みの雛形は、1996年時点で既に米国Infoseekに存在していました。アタラ株式会社会長の佐藤は、当時の驚きをこう振り返ります。

「バナー画像をInfoseekのサーバーにアップすると、提携した他サイトへ自動的に配信される。3サイト合計で保証回数に達すると次の広告に切り替わる。まだ『アドネットワーク』という言葉がない時代に、Infoseekはそのシステムを稼働させていたんです。」(佐藤)

出展「Infoseek Network」の概念図(杓谷 匠 作成)
出展「Infoseek Network」の概念図(杓谷 匠 作成)

伊藤穰一氏が「将来は世の中全部のサイトがInfoseekになっちゃうね」と予言したそのモデルは、後にGoogle AdSenseによって現実のものとなります。Infoseekはさらに、CPM単位の販売や「Select Cast」という名称での行動ターゲティング(BT)の開発など、技術優先の姿勢で時代の数歩先を走っていました。

DoubleClickと「DART」がもたらした標準化

1997年、もう一人の主役である米DoubleClickが日本に上陸します。ダブルクリックジャパンの代表を務めた上野正博氏によれば、同社は当初、検索エンジン「AltaVista」系のアドネットワークとしてスタートしました。

彼らがもたらした最大の武器が、アドサーバー「DART(Dynamic Advertising Reporting and Targeting)」です。

  • DFP(DART for Publishers): 媒体社向けの管理ツール。現在の「Google アド マネージャー」。
  • DART Enterprise: 当時の日本で主流だったオンプレミス(サーバー設置型)の要望に応えた製品。

1999年に競合のNetGravityを買収したことで、日本でも朝日、日経、毎日といった大手新聞社や、メディアレップのCCI、DACが軒並みDoubleClickの技術を採用。これにより、レポートの改竄を防ぎ、広告の定義を統一する「業界の標準インフラ」が完成しました。

「アドサーバー」を活用したバナー広告の配信の概念図
「アドサーバー」を活用したバナー広告の配信の概念図

「ターゲット」という概念の誕生

DoubleClickは、1997年に標準化された「Cookie」をいち早く広告配信に活用しました。 DARTの「T(Targeting)」が示す通り、ドメインや地域、さらには閲覧履歴に基づいた「オーディエンンスターゲティング」を確立。現代の「リターゲティング」の先駆けである「Boomerang(ブーメラン)」もこの時期に誕生しています。

Googleによる「再構築」と2024年の最終形

Googleはこれら先駆者の技術を「買い取り、統合」することで覇権を握りました。 2003年にApplied Semanticsを買収してAdSenseの「脳」を作り、2007年にはDoubleClickを買収してDARTという「最強の心臓」を手に入れたのです。

GoogleAdsenseを再定義すると?

Google AdSenseを歴史的な文脈で再定義するならば、それはGoogleが一から発明した魔法ではありません。

その実態は、DoubleClick社から買い上げた最強の配信エンジン「DARTと、巨大な取引市場である「Ad Exchange」をベースインフラとし、そこにApplied Semantics社の「文脈解析技術」を統合することで、アドネットワークへと作り変えたOEM的な性質を持つSaaS型の広告配信プラットフォーム」なのです。

  • OEM的性質: 外部の卓越した技術(DART / Ad Exchange)を自社のブランド(AdSense)としてパッケージ化し、世界中のサイトへ提供したこと。
  • SaaS型の破壊力: 当時主流だったサーバー設置型(オンプレミス)の重厚なシステムを、ブラウザ一つで完結するクラウドサービスへと昇華させ、ロングテールの個人サイトまで一気に飲み込んだこと。

そして2024年、Google AdSenseはクリック報酬型(CPC)から表示報酬型(CPM)へと完全に移行しました。これにより、1996年にInfoseekが始めたCPM販売の思想と、DoubleClickが築いたインフラが、名実ともに一つの巨大なリアルタイム市場(Ad Exchange)へと完全に統合されたのです。Updates to how publishers monetize with AdSense


結び:0.1秒の「競り」の幕が開く

アドネットワークによって「面」が整い、CookieとDARTによって「人」の識別が可能になりました。インフラ、データ、そして市場。すべての条件が揃ったとき、物語は「枠を売る」という静かな取引から、0.1秒間で世界中の知能がぶつかり合う「RTB(リアルタイム入札)」という狂騒の時代へと突入します。

次回、いよいよ。 広告主の代理人「DSP」と、媒体社の代理人「SSP」が、一円単位で火花を散らす『RTBとプログラマティックの深淵』へ。

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この記事を書いた人

爲國 勇芽のアバター 爲國 勇芽 アドブリッジ 創業者 / アドテク・ストラテジスト

アドブリッジ創業者。広告技術の翻訳家。プラットフォーム広告、ポストCookie、リテールメディア等の最新動向を分析。|現場知見を、メディア収益化の武器に転換。|プロの思考をブロガーの現場へ届ける。

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